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東京高等裁判所 平成11年(ネ)6289号 判決

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人東日本建設業保証株式会社は、控訴人に対し、原判決別紙預金目録記載の預金(本件預金)につき、控訴人が預金債権者であることを確認する。

三  被控訴人株式会社第一勧業銀行は、控訴人に対し、一二九〇万円及びこれに対する平成一〇年一〇月三一日から支払ずみまで年六パーセントの割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

五  三項につき仮執行の宣言。

第二事案の概要

一1  破産者杉山電設株式会社(破産会社)は、平成九年六月二〇日、東京都から「都営住宅08H-006北(美住町一丁目第3)屋内電機設備工事」(本件工事)を契約金額・七一一九万円、前払金を支払う等の条件で請け負い(本件請負契約)、被控訴人保証は、同日、破産会社との間で、本件工事について、被保証者・東京都知事、保証金額・二八四〇万円(前払金相当額)等として前払保証をし(「本件保証」ないし「本件保証契約」)、同年七月四日、被控訴人銀行に対し、本件保証につき前払金預託取扱依頼をし、被控訴人銀行は、同月八日、破産会社との合意に基づき、「杉山電設株式会社」名義の預金口座(本件口座)を開設し、東京都は、同年八月六日、本件口座に本件工事の施工のための経費として二八四〇万円(本件前払金)を送金した。

破産会社は、同月七日、下請けの富士電設資材株式会社が担当した工事分の支払に充てるため、所定の手続を経て、本件口座から現金一五五〇万円を払い出し、本件口座の残金は一二九〇万円になった。

破産会社は、同年一一月二七日、東京都に対し、本件工事が続行不能である旨を申し出、東京都は、同年一二月八日、破産会社に対し、本件請負契約を解除した。

被控訴人保証は、平成一〇年一月一四日、東京都に対し、その請求に基づき、本件保証契約による東京都のための保証債務の履行として、本件前払金二八四〇万円から破産会社の施工した本件工事の出来形(出来高)分を控除した二〇九九万〇一五〇円を支払った。

破産会社は、同年三月一八日、破産宣告を受け、原判決別紙預金目録記載の預金(本件預金)がされたまま、本件口座から払出しがされない状態で現在に至っている。

2  本件は、破産会社の破産管財人である控訴人において、本件預金につき、被控訴人保証がその帰属を争うことから、被控訴人銀行との預金契約に基づいて、被控訴人銀行に対してその払出しを求め、被控訴人保証に対して預金債権者であることの確認を求めた事案である。

原審は、本件預金については、厳密な意味で信託に当たるといえるか否かはさて措き、少なくとも信託とみてもそれが許容されるような法的関係が認められることから、信託法一六条の趣旨を類推適用して、受託者に相当する破産会社の破産によって、これが破産財団に帰属することはないものと解するのが相当であり、被控訴人保証は、本件保証の履行により、被保証者である東京都の保証契約者に対して有していた権利を代位取得し、これは保証契約者に対する求償権を行使するための法定代位であるから、結局、破産管財人である控訴人に対しても、債権譲渡の対抗要件を具備することなく、本件預金債権について権利を主張することができるとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。

二  「前提となる事実」及び「判断すべき事項」

当審における控訴人の主張を次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」二のうちの関係部分に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決六頁九行目から一〇行目にかけての「これを受けて」を「破産会社との合意に基づき」に改める。)。

(当審における控訴人の主張)

本件預金について、信託法(法)一六条の趣旨を類推適用すべきものとした原判決の解釈は誤りである。

1 信託契約が成立するためには、「信託」という文言を使用する必要はないが、少なくとも、信託の客観的事実が存在し、その事実について当事者双方が認識している必要があるところ、本件においては、いずれも認められない。

(一) 本件では、そもそも信託としての財産移転行為(信託行為)が存在しない。東京都から破産会社への請負代金の支払は、代金支払としての財産移転行為であり、信託としての財産移転行為ではない。支払後の金員の使途について前払金制度上の制約があっただけにすぎないのである。したがって、信託としての財産移転行為は一切なく、信託として認められる客観的な事実は存在しない。

(二) 本件財産移転行為は、請負代金の支払にほかならないのであるから、信託としての財産移転行為と類似した行為が存在していると評価することもできず、客観的事実として、信託法を類推適用できる基礎がない。

(三) 東京都から振り込まれた金員の使途は、破産会社が下請けを使用して自己が請け負った工事を行うために、下請業者に対し、その一部を支払ったもので、その際、破産会社が信託財産の処分をしたという認識は全くなかったことはもちろん、客観的にも、下請業者への支払という事実が存在するだけで、信託財産を処分したという事実は存在しない。

2 本件に信託法を適用ないし類推適用することは、次のとおり、信託法上の根本原則に反する結果となる。

(一) 受託者の利益享受の禁止(法九条)

原判決は、受益者が誰であるかという客観的な判断を敢えて回避している。しかし、本件預金の処分行為により利益を受けるのは、間接的にはその支払により下請業者らが工事を施工するようになるという意味で、注文者たる東京都であるといえないことはないが(しかし、前払金が適切に使われることに利害関係を有する発注者も受益者であるとすると、信託目的を定めて金員を信託した委託者はすべて信託目的どおりに金員が使われていることについて利害関係を有しているということになり、信託法上の委託者は例外なく受益者という結果となってしまい、法九条は死文化する。)、預金を引き下ろすことにより、材料費に充てたり、下請業者に対する請負代金の支払義務を履行することができるようになる破産会社が直接的な利益を受けることになることは疑問の余地がない。

そもそも信託制度の本質上、受託者は他人のために財産の管理処分をすべきものであるから、受託者が自己のために財産を管理処分し、自ら信託上の利益を受けることは、制度の本旨に反することになるから、本件について信託法の規定を適用ないし類推適用することは許されない。

(二) 有限責任の原則(法一九条)

信託法は、受託者が信託行為により受益者に対して負担する債務については、信託財産の限度においてのみ、その履行の責任を負うべき者として、受託者の責任が有限責任であることを明らかにしている。

しかし、本件においては、破産会社が東京都から受けた金員(被控訴人保証のいう「信託財産」)を東京都らの意図通りに善管注意義務をもって下請業者に支払ったとしても、当該下請業者が倒産した場合や、当初から工事を施工する積もりがないのに詐欺的に下請代金だけを取得したような場合などには、破産会社はその信託財産である預金以外に他の下請業者を新たに選定して下請代金を支払わなくてはならなくなり、明らかに信託法の有限責任の原則に反する結果となる。

(三) 物上代位の原則(法一四条)

信託財産の管理処分等により、受託者が得たる財産は信託財産に属することとされるが、本件預金の利息は、信託財産に属することなく、破産会社が取得することができるようになっている。すなわち、本件の場合、破産会社がこの利息の払出しをするには、「払出依頼書」は必要でなく、通常の預金の払出しと同様に払出しができるとされている(乙一六)。右の取扱いは、明らかに法一四条に反する。

(四) 費用請求権(法三六条)

受託者が信託財産を管理し、受託事務を執行する際に、税金その他の費用がかかった場合、受託者はまず信託財産から優先的に補償を受けることができ、更に受益者に対してもその補償を請求することができるとされている。そうなると、本件では、破産会社は、東京都に対し、下請業者への振込手数料や本件預金に関する利子税を請求できるということになるが、その結果は、極めて不当であるし、実際、破産会社が東京都にそのような費用を請求することはあり得ない。この点をとってみても、本件預金を信託財産であると解することが無理であることが証明されている。

(五) その他

(1)  本件預金について、信託ないし信託類似の関係を無理に認めると、一般的な工事請負契約における前払金についても信託ないし信託類似の関係が認められる結果になり、注文者は、預金に質権等の担保権を設定した場合よりもより多く保護されるという不当な結果となってしまう。なぜなら、一般的な場合でも、特定が維持されているケースがあり得るし、制度等により使用に関して強い拘束力が存在しないことが、信託や信託類似の関係を認める上で、何ら障害となるものではないので、本件のような前払金制度が存在しなくても、当事者の合理的な意思解釈により、信託や信託類似の関係が認定される結果となるからである。

(2)  仮に、原判決のように解することになれば、今後、工事請負契約においては、「前払金は請負工事の費用に充てることを信託目的として預ける信託財産である。」旨の信託条項が必ず付記されることになるであろう。そして、かかる条項を付記するだけで、現存するどんな担保権よりも強力な担保権を設定することができることになる。この結果は、現在の担保権の概念を根底から覆すほどの影響があると思われ、取引の安全を著しく害する極めて不当な結論である。

(3)  更に、本件のように客観的にも主観的にも信託としての実体がないにもかかわらず、信託ないし信託類似の関係を認定することは、制度の存在や当事者の合意だけで私的に差押禁止財産を作出できる結果となりかねない。差押禁止財産が明確に法定されている現行法においては、制度や私人間で差押禁止財産を自由に作り出す行為は認めるべきでない。

(4)  原判決は、弁護士の預かり金専用口座、損害保険総代理店が収受した保険料の保管口座、マンション管理組合の修繕費等を積み立てた管理会社の預金口座の例を挙げるが、これらはいずれも名義自体預かり金口座であることが明示されていたり、代理人名義であることが明示されているケースであり、名義上明らかに当人の固有の銀行口座と峻別できるような形となっている。したがって、名義上破産者の他の銀行口座と区別できない本件とは全く事案を異にする。

(5)  原判決は、「被控訴人保証は、本件保証の履行により、被保証者である東京都の保証契約者に対して有していた権利を代位取得し、これは保証契約者に対する求償権を行使するための法定代位であるから、結局、破産管財人の控訴人に対しても、債権譲渡の対抗要件を具備することなく、本件預金債権について権利を主張することができると解すべきことになる。」と判示している。

しかし、原判決のいう「東京都の保証契約者に対して有していた権利」とは、どのような権利を指しているのか明らかでないのみならず、本件は、破産宣告前に本件請負契約が解除されたのであるから、仮に、「信託とみてもそれが許容されるような法的関係」があったとしても、かかる法的関係は、右請負契約に付随して成立しているものであるから、それが解除された以上、それに付随して成立していた「信託とみてもそれが許容されるような法的関係」も当然その性質を変容すべきものである。

(6)  本件では、前払金制度による保証会社の保証があるため、東京都が取戻権を行使することはあり得ず、東京都は保証責任を保証会社に追求し、損害を被る可能性は全くないようになっている。逆にいうと、東京都に損害が生じて税金が不当に使用されるのを回避するために定められたのが前払金制度であるといえるのである。したがって、本件で取戻権を認めるということは、東京都を保護するためではなく、結果として、保証会社を保護するためということになる。保証会社は、公共工事の前払金保証事業に関する法律(保証業法)等により制約、監督等を受ける会社ではあるが、保証料の取得など営利活動を行う純然たる営利会社であり、他の営利企業と区別して特別の権利を与える必要は全くない。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本訴請求は、いずれも理由がないので棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。

一  「公共工事の前払金保証事業」、「前払金保証に関連する諸規定」及び「前払金保証と預金取扱いの仕組み」

原判決の「事実及び理由」三の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  以上の事実関係によれば、破産会社と東京都との間の本件請負契約における本件前払金支払の合意(本件前払合意)は、保証業法による保証を前提とするものであるところ、保証業法によれば、保証は保証約款に基づくことが規定され、かつ、保証約款は、建設大臣の承認を要し、建設省からの通知等をもって各地方公共団体に周知されているのであるから、当事者である破産会社と東京都は、保証業法及び本件約款の各規定(前払金の保管方法、使途制限、管理、監査の方法等の各規定)を容認し、これらを前提として前払合意をしたものというべきである。そして、本件前払合意並びに保証業法及び本件約款によれば、前払金は別口普通預金口座で別途管理すること、本件工事の必要経費以外に使用してはならないこと、払出しについても、適正な使途に関する資料を提出して確認を得なければならないこと、破産会社は前払金の使途について監査を受け、使途が適正でないときは払出中止の措置がとられることなどが定められている。このように、その使途について厳格な制限を課し、分別の管理を行わせていることなどを考慮すると、本件前払合意による前払金は、未だ請負代金の支払とはいえず、その使途を本件工事の必要経費に限定した信託財産として移転したものと解するのが相当である。したがって、本件前払合意は、法一条にいう信託契約に該当するものであり、前払金が本件預金口座に現実に振込まれた時点で信託が成立し、工事の進展に応じて、一定の手続きに基づいて破産会社に払い出されることによって、請負代金の支払になるというべきである。

なお、本件預金債権は、破産会社の一般財産から分別管理され、特定性をもって保管されているのであるから、受託者の一般債権者は信託財産の差押等はできず、また、登記、登録が不可能な財産権であるから、分別管理されていることによって、破産管財人を含めた第三者にも対抗することができると解される(法一六条)。

1  控訴人は、信託契約が成立するためには、信託の客観的事実とその事実について当事者の認識が必要であるところ、本件預金に関しては、このような事実は存在しないことなどを主張する。

しかしながら、本件前払合意による前払金は、未だ請負代金の支払とはいえず、これを客観的にみれば、その使途を本件工事の必要経費に限定した信託財産として財産移転行為であると解するのが相当であり、また、東京都及び破産管財人は、本件前払金が右のような趣旨で本件預金口座に振り込まれることを認識していたものと推認することができるのであるから、それ以上に、右の関係者が、法律的な意味において「信託財産」としての財産移転行為に当たることまで認識していなかったとしても、本件預金が信託財産に当たるものと解する妨げにはならないというべきである。

なお、被控訴人保証の前払金預託取扱要領(乙一六)の「まえがき」には、「公共工事の前払金は、・・・着工時に請負代金の一部を請負人に前払いするものである」と記載されているが、本件預金に関する客観的事情が既に認定したとおりである以上、右のような記載があるからといって、前記の判断の妨げとなるものではない。

2  控訴人は、本件に信託法を適用ないし類推適用することは、信託法上の根本原則に反する結果となると主張して種々の理由を挙げているので、その主要な点について検討する。

(一) 受託者の利益享受の禁止(法九条)との関係について

控訴人は、本件預金の処分行為により破産会社が直接的な利益を受けることになることは疑問の余地がなく、受託者が自ら信託上の利益を受けることは、制度の本旨に反することになるから、本件について信託法の規定を適用ないし類推適用することは許されない旨主張する。

本件における信託契約においては、東京都は、前払金が工事代金の一部として支払われ、それ以外には使われないということについて利益を有する受益者であるとともに、破産会社も、本件工事を行えば、それに応じて支払を受けられるという意味において受益者となる。したがって、破産会社は、受託者兼受益者であるが、法九条は、受託者が単独受益者を兼ねることを禁止するものにすぎないから、複数の受益者のうちの一人が受託者を兼ねたとしても、同条には反しない。

なお、控訴人は、委託者が受益者であるとすると、法九条は死文化すると主張する。しかし、信託終了の際に信託財産の帰属すべき者も受益者に当たると解されるところ、本件の場合、発注者である東京都が受益者に当たると認められるのは、工事が中止され又は請負契約が解除されるなどして信託関係が終了した場合に、前払金を受託者たる請負人から返還請求することができる立場にあることによるのであって、控訴人主張のように、信託目的を定めて金員を信託した委託者のすべてが受益者となるわけではないないから、控訴人の右主張は採用することができない。

(二) 有限責任の原則(法一九条)との関係について

控訴人は、破産会社が東京都から受けた「信託財産」を東京都らの意図通りに善管注意義務をもって下請業者に支払ったとしても、当該下請業者が倒産した場合や、当初から工事を施工する積もりがないのに詐欺的に下請代金だけを取得したような場合などには、破産会社は他の下請業者を新たに選定して下請代金を支払わなくてはならなくなり、有限責任の原則に反する結果になる旨主張する。

しかしながら、法一九条は、受託者が受益者に対して信託財産から給付をする場合には、信託財産を限度するという当然のことを定めたものである。受託者が信託財産を目的外に使用したり、そうでなくても、控訴人が挙げるような事情により、破産会社が信託財産以外に更なる出捐をせざるを得なくなるというような自体は、法一九条とは全く異なる次元の問題であり、信託契約によるのではなく、請負契約の内容によって決まるのであるから、控訴人の主張するような事態が生じることがあっても、本件預金が信託財産に当たるものと解する妨げとなるものではない。

(三) 物上代位の原則(法一四条)との関係について

控訴人は、信託財産の管理処分等により、受託者が得たる財産は信託財産に属することとされるが、本件預金の利息は、信託財産に属することなく、破産会社が取得することができることになっているので、右の取扱いは、明らかに法一四条に反する旨主張する。

しかしながら、預金から発生する利息については、信託行為によって受託者が取得するように定めることも可能であり、このような定めが法一四条に反するものということはできない。

(四) 費用請求権(法三六条)との関係について

控訴人は、受託者は、信託財産の管理等に要した費用の補償を受益者に対して請求することができるが、破産会社が東京都に対し、下請業者への振込手数料や本件預金に関する利子税の補償を求めることができるというのは極めて不当であるし、実際にも、破産会社がそのような請求することはあり得ず、このことは、本件預金を信託財産であると解することが無理であることを示すものである旨主張する。

しかしながら、本件預金に関する利子税は、これを控除した利子が新たに信託財産になるものと解するのが相当であるから、法三六条の「信託財産ニ関シ負担シタル租税」には当たらないと解するのが相当である。また、本件前払金は、請負人である破産会社に対して支払うべきものであるから、破産会社がその支払を受けた後、それを下請代金の支払に充てたとしても、それは破産会社の債務の支払をしたにすぎず、本件預金にかかわる信託事務の処理とは直接の関係がないというべきであるから、下請業者への振込手数料をもって「信託財産ニ関シ負担シタル費用」には当たらないと解すべきである。

したがって、控訴人の前記主張は、その前提を欠き失当であるというほかない。

(五) その他

(1)  控訴人は、本件預金について、信託関係を認めると、一般的な工事請負契約における前払金についても信託関係が認められる結果になり、注文者は、預金に質権等の担保権を設定した場合よりもより多く保護されるという不当な結果となってしまう旨主張する。

しかしながら、請負契約解除などの場合の前払金返還請求権を確保する途として、複数の方法がある場合に、どの方法によるかは、各方法の長所、短所等を総合的に考慮して、請負契約の当事者が自由に選択できるところであるから、仮に、右の場合に、信託の方法による方が質権の設定等の担保権設定の方法によるよりも多く保護されることとなったとしても、そのことをもって不当な結果であるということはできない。

(2)  その他、控訴人が主張するところは、いずれも前記判断を左右するものではない。

三  被控訴人保証に対する請求について

1  信託がその目的を達することができなくなって終了した場合に、信託契約でその場合の信託財産の帰属を定めていないときには、信託財産は委託者に帰属するものと解されるから、本件においては、本件請負契約が解除された時点で、信託は終了し、本件預金債権は、委託者たる東京都に帰属したことになる。よって、信託財産は破産財産を構成せず、東京都は、取戻権を取得した。

そして、被控訴人保証は、本件前払金と工事の出来高との差額を東京都に支払ったことにより、破産会社に対し求償権を取得し、その行使のために、東京都の取戻権を代位取得したといえる。なお、本件預金債権は、破産会社の一般財産から分別管理され、特定性をもって保管されているから、受託者の一般債権者は信託財産の差押等はできず、また、登記、登録が不可能な財産権であるから、分別管理されていることによって、第三者にも対抗することができると解される(法一六条)。したがって、東京都の取戻権が控訴人に対抗できるものであったことはもちろん、被控訴人保証の取戻権の取得は、法定代位によるものであるから、債権譲渡の対抗要件を満たす必要はなく、当然に控訴人に対抗することができるというべきである。

2  控訴人は、破産宣告前に本件請負契約が解除されたのであるから、信託とみられる法的関係は、本件請負契約に付随して成立しているものであるから、それが、解除された以上、それに付随して成立していた右法的関係も当然その性質を変容すべきものである旨主張するが、控訴人の主張する「変容」内容も明らかでなく、採用することができない。

四  被控訴人銀行に対する請求について

前記の事実関係によれば、被控訴人銀行と破産会社との間においても、本件預金の払出しについては前記の手続によるとの合意が成立していると認められ、控訴人もその合意に拘束されるというべきである。

五  結論

以上によれば、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。

よって、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 井上稔 裁判官 河野泰義)

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